この記事でわかること:
保育園の現場は日々忙しく、つい「後回し」になりがちなのがガバナンス整備と監査対応。でも、最低限の型を押さえれば“指摘されない体制”は30日で立て直せます。この記事では、社会福祉法人に求められるガバナンスの要点、指導監査で見られる観点、そして保育園に多い指摘と実務対策を、チェックリスト付きで整理します。制度改正の背景と根拠にも触れながら、迷いなく準備できる道筋を示します。

監査で指摘されないための7項目チェックリスト(保育園版)|無料DL

指導監査の“見られるポイント”を1枚に。今日から整えられる最短ルートを確認できます。

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まず「ガバナンス」とは何か(社福×保育の要点)

2016年の社会福祉法改正は、社会福祉法人の経営組織のガバナンス強化事業運営の透明性向上を柱に制度をアップデートしました。理事会・評議員会・監事の役割の明確化、利益相反の管理、情報公開の徹底など、仕組みで不正や不適切運営を防ぐのが狙いです。保育園を運営する法人も例外ではなく、規模の大小を問わず「仕組みが回っている状態」を求められます。

また、一定規模以上の法人は会計監査人の設置義務があります。段階的導入を経て、現在はサービス活動収益10億円超または負債20億円超が目安。該当しない小規模法人でも、監査人設置相当の内部統制整備は監査対応の観点で有効です。

指導監査で見られる“共通ポイント”と保育園の典型指摘

厚生労働省の「指導監査実施要綱/ガイドライン」では、法人運営(評議員・理事・監事の適正、議事録、利益相反)、管理(規程・会計・契約・物品管理・文書管理)、情報公開などの観点で確認が行われます。現場実務に落ちるチェック項目が定められているため、ガイドラインに沿って自法人の棚卸しをするのが最短ルートです。

保育園で実際に多い指摘は、

  • (1)運営規程と実態・重要事項説明書の不整合
  • (2)配置・研修等の記録不備
  • (3)会計証憑の整合性不足
  • (4)情報公開・結果公表の不足など。

特に実費徴収(教材費・延長保育料・行事費等)の項目・金額・周知の仕方は細かく見られます。重要事項説明書に具体項目と金額を明記し、更新時は保護者周知をセットにしましょう。

情報公開については、WAMネットの電子開示システムで現況報告・財務情報等の公開が求められています。自法人ページの更新状況と公開範囲を定期点検しましょう。

指摘されない体制の「5つの柱」

以下の5本柱で整備すると、監査観点を広くカバーできます。

1. 機関運営(理事会・評議員会・監事)

  • 年間スケジュール(定時評議員会・理事会・監事監査)をカレンダー化
  • 理事会決議事項の網羅(規程改定、重要契約、人事・報酬、資産処分 等)
  • 議事録の要件整備(出席者、審議経過、決議内容、反対意見の記載)
  • 利益相反の審議ルール(関係者の除斥・記録)
  • 監事監査の実効性(計画→実査→報告→是正のPDCA)

これらは実施要綱・ガイドラインの基本動線に沿っています。厚生労働省

2. 規程・文書管理

  • 必須規程:運営規程、会計規程、出納・旅費・経費精算、契約・稟議、物品・固定資産、個人情報、情報セキュリティ、苦情対応 ほか
  • 整合性:運営規程 ⇄ 重要事項説明書(実費徴収の項目・金額・見直し手続)
  • 版管理:改定履歴、施行日、周知方法(職員・保護者)
  • 公開:Web掲載や園内掲示の最新化

保育園は重要事項説明書の整備が肝。自治体が示す記載例・考え方に沿って「必要最小限の項目と金額」「周知の透明性」を担保しましょう。

運営規程×重要事項説明書の整合チェック表(保育園版)|Excel

実費徴収の項目・金額・根拠を一括管理

給食費/教材費/延長保育料/行事費…条番号⇄重要事項説明書⇄金額・根拠・周知を横串で見える化。改定履歴と保護者周知の抜け漏れも防げます。

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3. 会計と証憑

  • インボイス対応(適格請求書の受領・保存)
  • 電帳法対応(メール請求書・PDFの真実性・可視性確保/検索要件)
  • 現金出納の分掌と突合(日々〆・月次実査)
  • 園別・事業別の計上(部門配賦の方針明文化)
  • 証憑の三点セット(日付/相手先/但し書き)を欠かさない

ガイドライン上も「会計管理」は重点点検領域。ワークフロー化と定期のセルフレビューで“落ちない”体制に。

4. 人事・労務・研修

  • 配置基準とシフト整合(欠員・代替の手当て含む)
  • 時間外の上限管理、36協定・有休付与・育休等のコンプラ
  • 研修計画と受講記録(安全、アレルギー対応、虐待防止 等)
  • ハラスメント相談ルートの周知と記録

5. 保護者・地域への透明性

  • 情報公開(WAMネット・法人サイトの最新化)
  • 結果公表・自己点検(園の運営状況・外部評価の公開)
  • 苦情対応プロセス(受付→記録→改善→周知)

監査の観点とも親和性が高く、整備の優先度が高いパートです。

保育園特有の“落とし穴”と先回り対策

  1. 実費徴収:項目・金額・算定根拠・改定手順・免除規定・周知方法を一体で整える。重要事項説明書への明記は必須。園だよりや入園案内との記載不一致がないかも点検。
  2. 行事費・寄付:強制にならない運用。任意の範囲・方法・返金条件を明文化。
  3. 事故・ヒヤリハット:国の事故防止・発生時対応ガイドラインに沿って、予防の着眼点と報告ルート、訓練計画、保護者への説明の型を整備。重大事故は速やかな報告が必要です。
  4. アレルギー対応:医師の指示書・個別対応表・給食工程の二重チェック・誤配膳防止のポカヨケを文書化。
  5. 写真・個人情報:同意取得の範囲(Web掲示・業者連携・卒園アルバム)を明示。

アレルギー対応に関してはこちらの記事も

“30日で整える”短期アクションプラン

Week1:現状棚卸

既存規程、議事録、監事監査報告、契約台帳、固定資産台帳、出納帳、証憑サンプル、公開情報(WAMネット・法人サイト)を一覧化。ガイドラインの章立てに合わせて欠落・不整合をマーキング。

Week2:規程差替え・整合

運営規程と重要事項説明書の整合/実費徴収の明文化/改定履歴と周知計画の付記。

Week3:会計・証憑フロー標準化

起票→承認→保存をワークフロー化。現金実査・銀行突合の頻度を宣言。園別配賦の方針を文書化。

Week4:模擬監査&是正計画

チェックリストでセルフレビュー→理事会で是正計画を決議。担当・期日・KPIを紐付け、翌月からモニタリング。

[本文中CTAWeek1の末尾に設置]
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監査当日の持ち物・想定問答

持参・提示書類を求めらる事が多いもの

定款/役員名簿/議事録(直近2年)/監事監査報告/規程一式/組織図/契約台帳/固定資産台帳/出納帳/証憑サンプル/WAMネット公開資料(写し)/重要事項説明書/運営規程 ほか。

想定問答の例:

  • 「運営規程の改定履歴と、保護者への周知方法は?」
  • 「利益相反の審議はどのように運用していますか?」
  • 「現金取扱いの分掌と、実査・突合の頻度は?」

これらは実施要綱・ガイドラインの着眼点と整合します。

FAQ(理事長・園長向け)

小規模法人で会計監査人は不要?

法定義務は「サービス活動収益10億円超または負債20億円超」ですが、内部統制の整備は規模に関わらず必須。任意の会計専門家レビューや模擬監査は、監査本番の“指摘防止”に効果的です。

自治体によって指摘は違う?

国の要綱・ガイドラインをベースに、自治体の運用通知や重点事項が上乗せされるケースがあります。重要事項説明書の実費徴収の記載例など、自治体資料を必ず確認しましょう。

まとめ

保育園を運営する社会福祉法人にとって、ガバナンスは“書類の整備”ではなく“仕組みで回す”ことが本質です。理事会・評議員会・監事の運用、規程と重要事項説明書の整合、会計・証憑フロー、人事・研修、そして保護者・地域への透明性――この5本柱を押さえれば、監査時の指摘は大きく減ります。本記事のチェックリストと30日プランを起点に、まずは現状の棚卸しから。迷うポイントは専門家の視点を活用し、短期間で“指摘されない体制”へ整えていきましょう。